2025.10.24
【WMS失敗談②】「導入したのに在庫が合わない…」なぜ?現場の落とし穴
前回は、「そもそもWMSを導入しない方が良かった…」という衝撃的な失敗談をお届けしました。今回は、WMS導入自体は正解だったものの、その「使い方」を誤ったことで泥沼にはまってしまった、生々しい事例をご紹介します。
目次
事件の始まり:最初の棚卸しで発覚した「3ピース」のズレ
今回の事例は、複数のクラウドWMS導入・運用経験を持つ、ある中堅規模の倉庫会社。新規のEC事業者様(雑貨販売)に対しても、いつも通り自信を持ってWMS導入を提案し、プロジェクトはスタートしました。
しかし、運用開始から3ヶ月後。最初の棚卸しを終えた直後、お客様から一本の電話が入ります。「在庫数が合いません」と。
お客様が理論在庫を計算したところ、WMSの在庫データと「3ピース」のズレがあるとのこと。その時の倉庫側の説明は、次のようなものでした。
倉庫側の説明
🚚 移管時の数量がズレていた可能性
元の倉庫からの申告数をそのまま在庫として登録してしまった。
🏃 棚卸しのタイミング逸脱
発送作業を優先し、本来やるべき移管直後の棚卸しができていなかった。
🗣️ その場しのぎの楽観論
「今回の棚卸しで実在庫とデータは一致したので、今後はもうズレません!」
📌ポイント:実は奥が深い「倉庫移管」
倉庫移管では、ほぼ必ずと言っていいほど在庫数のトラブルが発生します。移管元の認識と移管先の認識が食い違うのです。これを防ぐには、入庫時の数量カウント方法、棚卸しのタイミングと精度、差異発生時の責任の所在など、細かい点までお客様と倉庫が一体となってプロジェクトを進める体制が不可欠です。
半年後の悪夢:在庫差異が「100ピース」に拡大!
お客様も一度は倉庫側の説明に納得し、時は過ぎて半年後。2回目の棚卸しで、事件は起こりました。
「また在庫が合わない!しかも今回は100ピースもズレている!」
「今後はズレない」と約束した手前、お客様の怒りは頂点に。ここでようやく、私のような外部の専門家に「助けてほしい」と声がかかったのです…。

🔍在庫差異の原因を追跡!浮かび上がった「現場の盲点」
早速、WMSの入出庫履歴を調査すると、すぐに奇妙な点に気づきました。ECなら必ずあるはずの「返品入庫」の履歴が一件もなかったのです。そこから芋づる式に、現場の運用ルールが抱える問題点が次々と明らかになりました。
1.「返品」が在庫データに反映されていない
現場では返品を受け付けていたものの、「WMSに在庫を戻す」というルールが決められておらず、データに全く反映されていませんでした。
2.「破損・不良品」がシステムから消えていない
保管中に発生した破損品などをどう処理してよいか分からず、現場の判断で「保留」と書かれた場所に隔離。WMS上は良品在庫として存在し続けていたのです。
3.セット商品の「単位」の不一致
FBA倉庫へ「2個1セット」で納品した商品が、返品時には「1個」ずつ戻ってくる…。この単位の違いを考慮せず処理したため、在庫数がどんどん狂っていきました。
4.イレギュラー出庫の記録漏れ
お客様が現場を視察された際に、本社用のサンプルとして抜き取った1ピースが、WMS上で処理されずそのまま1ピースズレたままの状態になっていました。
5.イレギュラーな入荷が「計上漏れ」に
逆に、テスター用として予定より多く入荷した商品を「予定と数が違うから」という理由で計上せず、宙に浮いた在庫となっていました。
これら全てを整理し、正しい運用に修正しました。それでも最後に残った「3ピース」の謎。しかし後日談があり、しばらくしてお客様から「購入者様から商品が過剰に入っていたと連絡があった」とのご報告が。最後の差異は、誤出荷が原因だったのです。
なぜ、こんな状況が生まれたのか?
根本的な原因は、この倉庫会社の「過去の成功体験」と「思い込み」にありました。
これまで取引のあった荷主様は、棚卸し差異に寛容で、「数が合わなければデータの方を直しといて」というスタンスでした。そのため、なぜ差異が発生したのかを深掘りし、業務フローを見直す機会が一度もなかったのです。
結果として、「うちはWMSで管理しているから在庫は完璧です」という営業トークと、現場の実態には、天と地ほどの乖離が生まれていました。
💡【教訓】「WMSがあるから大丈夫」は危険信号!
今回の事例から私たちが学ぶべきことは、非常にシンプルかつ重要です。
WMSは、ただの「箱」です。その「箱」を正しく使うための「業務フローの設計」と、それを「現場の全員が正確に実行する」ことができて、初めて真価を発揮します。
特に、返品、破損、サンプル、イレギュラーな入出庫など、日常業務の「例外処理」こそ、明確にルール化し、WMSの操作とセットで全員に周知徹底する必要があります。
皆さんの現場は、「WMSがあるから大丈夫!」と安心してしまっていませんか?
本当に自信を持って言うべきは、「WMSがあり、WMSを中心とした業務フローが全員で共有され、正確に実行されているから大丈夫」という言葉です。ぜひこの機会に、自社の業務フローを「書いて、見直し、共有する」活動を始めてみてはいかがでしょうか。

◇会社概要
会社名 LF&L株式会社(LF&L co.)
本社所在地 〒212-0014 神奈川県川崎市幸区大宮町14-3フォレストマインズ202
代表者 代表取締役社長 小林悠真
企業URL https://lflc.jp/
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